「情報の美」を追い求める|デザインのデザイン感想
原研哉さん著の「デザインのデザイン」を読んだので個人的な感想&気付きを書きたいと思います。
(2000年代の本はKindle系少ないすね...)
批評的思想を持つ「デザイン」
デザインという考え方・感じ方はその発生に遡って批評的なのである
ー 本書より
この四角い筒のトイレットペーパーも本書に取り上げられていて、筒が四角いことにより、紙を取る時の引っかかりによって使用量を少なく試みたり、四角い形にすることによって、丸い形の時よりも収まりが良くなる。
このリデザインについても、現存する「丸いトイレットペーパー」について、課題感を出す→この根本は批評から始まっているということで。
批評、というとちょっとネガティブな印象を持ちそうになったけど、ただ文句や意見を言うというわけではなく、現存するものを俯瞰したり、多角的に見る、またはリデザインを試みる当人達の思想などによって新しい需要や価値に生まれ変わるのだなと、改めて納得しました。
無印良品の秘密
突出した個性や特定の美意識を主張するブランドではない。「これがいい」「これじゃなきゃいけない」というような嗜好性を誘発すうような存在であってはいけない。いくらのブランドがそういう方向性を目指すであれば、無印良品は逆の方向を目指すべきである。すなわち「これがいい」ではなく「これでいい」という程度の満足感をユーザーに与えること。
ー 本書より
無印良品の目指す商品レベルについてのお話です。
これ「が」いいではなく、これ「で」いい。
私としては、無印良品の目指すイメージに対してこの考え方には、読んでいる時に違和感を感じたのですが、この後に書いてあった「【で】のレベルをできるだけ高い水準にあげること」で腹落ちしまくりでした。
プロダクト、世界観、価格設定にすべてに「【で】のレベルMAX」なんですよね。
「が」という抑制や限定的な要素ではなく、譲歩や広義的な「で」という、たった一文字の違いの全てが注がれている無印良品の中身をこの本で知ることができました。
日本人はデザインの基礎教育が不足している(た?)
今、デザインの意識がデザイン業界以外に高まっているのは、逆に言えば日本全体のデザインに対する意識がそこまで無かった故なのかもしれないことを、当時2003年初版のこの本で原研哉さんが語られていて、喫茶店で「ふぉぉ...」って声漏らしました笑
もしも、デザインという、生活環境におけるものに対する合理的な見方が、せめて義務教育の初期に行われていたなれば、生活者全体の意識は変わっていたかもしれない。「マンホールの蓋がなぜ丸いか。丸くないか。丸くないと蓋が穴の中に落ちてしまうから」というのは数学の問題ではなく、デザインの問題である。だから、さらに根本的なことを言うと、日本人にはデザインの基礎教育が不足しているのである。
ー 本書より
「コンビニ・スーパーの買い物」と「ブランドショップで買い物」という商品の買い方に二極化されているのは、マーケティングといった数学的な理由によるものが大きく、この思考が商品やお店でユーザーが買うことで一種の教育となり、この二極化に繋がるそう。
顧客の本音に寄り添う商品はよく売れるが、同時にマーケを通した生活文化の甘やかしにもなり得る→文化の変化という感じなのかな。
ただ、今はマーケにもブランディング調査などのいった項目も増えているので本書の時代のような買い物の二極化はそこまでなさそうかもですね。
情報の美とは
デザイナーがデザインする時に必要な「情報」。
2003年に「情報の美」をテーマに行われた「世界グラフィックデザイン会
議」で何故このテーマになったかを書いています。
デザイナーが情報に関与するポイントを「質」、その速度・密度・量以外にも「いかに分かりやすいか」「いかに感動的か」などの視点で情報を見ていく視点が大事として、
デザイナーが情報に関与するポイントは「質」である。
〜〜
そこで僕たちは「情報の美」という頂上へのアクセス・ルートとして次の三つの道筋を設定することにした。
それは「分かりやすさ」「独創性」「笑い」という三つのルートである。
ー 本書より
分かりやすさ
- 情報の質の基本
- 重要な価値・核心を誰もが摂取しやすい状態か
- 冷静沈着にプロセスが構築されているか
独創性
- 誰もやっていない方法で情報を表現する
- 興味を示し、感動し、尊重させる
笑い
- 極めて精度の高い「理解」
- 内容の把握+別の確度から鑑賞させる余裕 = 笑いが生まれる
- パロディは一種の批評だが、笑いが生まれるのは、そこに深い理解が生まれている
この3つの要素が組み合わさることで情報の美に到達する、アクセス・ルートのようなものだと書かれていました。
ここでは情報の美とありましたが、デザインのアウトプットとして意識していきたい要素ですね...!
CMやプロダクトなどもこの観点で見ていくと良い学びや気付きが生まれそうと感じました。
時代を感じさせない本
この本、去年くらいにツイッターで読了ツイートがたくさん流れてた記憶があって、最近の本だと思っていたのですが、初版が2003年なんですよね...!出てくる作品やイベントも2000年代のものが多く出てきます。
でも、読んでみても2003年頃とは思えない新鮮さ...!(とは言いつつ、時代が変わってもデザインの本質は変わらないということかも)
また、この本を読んでいて、デザインって語られていなかった言葉が多かったんだなぁ、と改めて感じました。
今でこそ当たり前になってきた「UXデザイン」という言葉ですが、この「デザインのデザイン」にも単語こそ出てきませんが、同じ意味合いの内容がプロセスの一部として出てきます。
デザインのプロセスが細分化しつつある昨今ですが、つまるところデザイナーに向けてもユーザーに向けても、いかに「情報の美」を高めるのかを追求することが大事だな、この本を読んで改めて感じた次第です。