デザイナーとしての「ゆるやかな死」
アダルト業界でデザイナーとして働いていた頃、
あるデザイナーの「ゆるやかな死」を見たことがある。
ここでいう「ゆるやかな死」というのは、
「アウトプットの決定的な低下」のこと。
エースデザイナーの「異変」
その人(以後、Nさんとします)は僕が新卒入社する前から、DVDジャケットのデザインを1ヶ月で10点前後作り続けている現役バリバリのグラフィックデザイナーだった。
月で10点は、ジャケット以外の業務も含めれば余裕で週3くらいは残業が必要な量。それをNさんは月に1回くらいの残業で平気にこなす。
言うなればエース、シニアとも言えるデザイナーさんだった。
そんなNさんがある時から変化が生じ始める。
アウトプットのテンプレ化
AVは「シリーズもの」が多い。
かの有名な「マジックミラー号」も、様々なシリーズ、企画内容が出ているが、それらをまとめて「マジックミラー号シリーズ」という感じだ。
デザイナーは、このシリーズものを監督やプロデューサーに指名をもらって請け負っていくことが多い。
シリーズものは、だいたい4~5本単位の周期でデザイナーを変えることが多かったが、Nさんはひとつのシリーズを新規から固定して依頼されることが多かったデザイナーの1人で、当時の社内ではトップランカーに値するデザイナーだった(僕も憧れてた)
しかし、Nさんが辞める半年前くらいあたりから、シリーズ作品のデザインテンプレ化を感じ始めていた。
シリーズものだとしても、ジャケット裏面のレイアウトは、その時の作品のコンセプトや女優さんの特色に応じて、レイアウトの調整を行うものなのだが、そのレイアウトが単一化してきていた。
同時に、Nさんの仕事だったものが当時の僕や同期、ひとつ上の先輩といった部下単位のデザイナーに来ることが増えていった。
テンプレ化・単一化といった「Nさんの変化」を感じ始めて数カ月後、Nさんは会社から去っていった。
センスは枯渇する
僕の上司さんがNさんが辞める直前のジャケットデザインを見た時に言ったことが今も記憶に残っている。
「あー、センスなくなったなぁ」と。
この時、僕は衝撃を覚えた。
「センスって無くなることあるのか!」と。
この上司さん自身はセンスがあるのはもちろん、シリーズや女優さんにあったジャケットデザインの最適解を見つけ出すといった、売れるデザインを見つける戦略的なデザイナーさんだった。
たしかにNさんはセンスの固まりのような人だった。
口数は少なく、打ち合わせも最低限だったけど、アウトプットしたものに抜本的な修正を入れられることはあまり見なかった。
今思うと、Nさんから感じ取っていたアウトプットの低下が上司さんが言っていた「センスがなくなった」=「センス残高」の低下だったのかもしれない。
「ゆるやかな死」は僕の前にも現れた
Nさんが辞めた後、僕は会社の事業戦力の都合でWebデザイナーへ転身となり、ジャケットの担当が無くなっていった。
当時は、グループ内でたった1人のWebデザイナーみたいな感じになっていた為、なかなか帰れない日々が続き、インプットを怠ってしまっていた。
ある日、Web業務のコーディングが終わって、久々に依頼されていたロゴデザインを着手しようとした深夜に、僕は頭を抱えることになる。
「同じようなロゴ」しか作れないのだ。
シンボルなしのロゴタイプの案は、無難な割に仕立てが悪い服みたいに不格好なものになっていた。
「ゆるやかな死」という死神が、僕に手を振り始めたサインだった。
結果的にはその死から逃れることは出来たけど、当時はあまり取得していなかった有休を使って会社を休み、+DESIGNINGを読み漁って押し込むようにインプットをして、必死に気持ちの切り替えに努めるようにしていた。
一瞬だけ手を振っていた死神は、気付けば見えなくなっていた気がする(見逃していた、だけかもしれないけど)
インプットをやめるな。死ぬぞ。
大きく出た見出しだけど、やることは些細で良いと思う。
雑誌、中吊り広告、Webサイト、ネット記事、どんな些細な事でも読み込んでみること。
あなたがデザイナーなら読み込んで、咀嚼をする。
例え、忙殺されていたとしても、気分転換を兼ねて読み込んでみても良いと思う。
そして少しでも「アウトプット」をすること。
実際にデザインをおこせ、とかじゃなくて、インプットした記事に対しての自分なりの着地点を話すくらいは出来るようにしておく。
料理もそうだけど、レシピだけ覚えただけで、美味しいものが作れるとは限らない。
例えばセンスによって1回目で美味しく作れたとしても、美味しく作れた理由を「センス」で片付けていると、何度も同じものを作る、別のものを作る時に味が落ちていく可能性がある。
これはその人のなり、立場、価値観によって違うことだと思うけど、
「センス」というのは何をインプットするか、そしてそのインプットによって、選択や選別をする時に「どれにするか」なのかもしれない。
今思えば、Nさんが会社を辞めたのはセンスの枯渇だったり、直近の仕事面の悩みとかではなかったのかもしれないけれど、少なくともこの一連の出来事は、僕自身の強い学びや戒めになったのは間違いない。
おっぱい。
追記:オンライン授業「Schoo」に出演させていただきました。
本記事をきっかけに、オンライン授業プラットフォームのSchooさんで講師として登壇致しました(30代の目標だったSchoo登壇がまさかこの形で叶ってしまうとは...!)
現在は、Schooの有料会員になって直接サイトでご覧いただくか、Schooさんの公式Youtubeチャンネルでアーカイブを見ることができます。
※5分間だけ無料のお試し受講もできるみたいです。
また、ありがたいことに別枠で登壇させていただいております。
こちらはなんと番組MC枠です 笑
noteでの文章とは違うライブ感を楽しむことが出来ると思うので、ぜひぜひご視聴してみてくださいb